无人知晓的真由子
最新书摘:
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常輝 Tsuneki2022-03-27がんばれ、むらさきのスカートの女。面接、どうか受かりますように。
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常輝 Tsuneki2022-03-27結局、夜になってから、むらさきのスカートの女の暮らす二〇一号室のドアノブに、試供品の入ったビニルバックをかけに行った。最初からこうしておけば良かったのかもしれない。ドア越しに耳を澄ますと、しゃこしゃこしゃこ、と歯を磨いているような音が聞こえてきた。歯を磨くとは良いこころがけだ。その調子で今度は髪も洗ってみてほしい。
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常輝 Tsuneki2022-03-27ここまで時間がかかったということは、わたしのやり方に問題があったのかもしれない。マーカーで丸するだけでなく、ページのはしを折ったりふせんを貼り付けたりすればこんなに時間はかからなかったのか。反省すべき点はいくつかあるが、何はともあれ、むらさきのスカートの女はやっと決断してくれた。
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常輝 Tsuneki2022-03-27求人情報誌が新しく発行されるたびにコンビニの雑誌コーナーまで取りに行き、それを専用シートに置くのはわたしの役目だ。
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常輝 Tsuneki2022-03-25一昨年の冬季オリンピックで銅メダルを獲った女子に、そういえば雰囲気が似ている気がする。青い衣装の、おばちゃんみたいな喋り方をする子だ。引退してからはタレントに転身し、去年、子供番組の司会に抜擢された。最近では「子供の好きなタレントランキング」第一位を獲得した、あの女の子。あの子と比べると、むらさきのスカートの女のほうがずっと年上ではあるが、知名度は(うちの近所に限って言えば)、同じくらい高い。
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常輝 Tsuneki2022-03-25ちなみに、むらさきのスカートの女の家ならとっくの昔に調査済みだ。公園からほど近いところにあるボロアパート。もちろん商店街からも近い。屋根の一部はビニールシートに覆われていて、外階段の手すりは錆びて茶色くなっている。むらさきのスカートの女は手すりには手をかけず、いつも這うようにして階段を上がって行く。一番奥の部屋。二〇一号室。
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常輝 Tsuneki2022-03-25つまり、何が言いたいのかというと、わたしはもうずいぶん長いこと、むらさきのスカートの女と友達になりたいと思っている。
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常輝 Tsuneki2022-03-25一定の速度で、スイスイスイと人混みをすり抜けて行く。不思議なことに、週末のどんなに人通りの多い時間帯でも、決して物や人にぶつからないのだ。あれはよほど優れた運動神経の持ち主か、もしくはおでこにもう一つ目が付いているかのどちらかだと思う。
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常輝 Tsuneki2022-03-23むらさきのスカートの女を一日に二回見ると良いことがあり、三回見ると不幸になるというジンクスがある。
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常輝 Tsuneki2022-03-23親の離婚がきっかけに一家が離れ離れになって二十年。
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常輝 Tsuneki2022-03-23小柄な体型と肩まで垂れ下がった黒髪のせいかもしれない。遠くからだと中学生くらいに見えなくもない。でも、近くでよく見てみると、決して若くはないことがわかる。頬のあたりにシミがぽつぽつと浮き出ているし、肩まで伸びた黒髪はツヤがなくてパサパサしている。
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常輝 Tsuneki2022-03-29わたしは買い物袋を脇に置き、なかからクリームパンの入った袋を取り出した。パンはほんのりと温かい。初めに半分に割って、片割れを膝の上に置き、もう片割れを口に運ぼうとした、まさにその時、ポン!と肩を叩かれた。絶妙なタイミングでわたしの肩を叩いた子供が、キャッキャッと笑いながら逃げて行った。
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常輝 Tsuneki2022-03-29「そんな、迷惑だなんて!」塚田チーフはブンブンと手を振った。「所長は被害者じゃないですか!」∕「そうですよ!ずっとあの女からストーカー被害受けてたんでしょう?」∕「あたしたち何にも知らなくて。二人でいるところをよく見かけるから仲良いなーなんて思ってて。もしかして、つき合ってんのかなー、なんて。あ、ごめんなさい、奥様の前で」∕「いいんです」奥さんは首を振った。「主人も強く言えなかったみたいですから」∕「言えるわけないだろう。デートしてくれなきゃおまえや娘に危害を加えるなんて脅されてさ」∕「ひどい……。最低の女」∕と塚田チーフが言った。
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常輝 Tsuneki2022-03-29「まだあるわよ。いつだったか、女優の五十嵐レイナが泊まった時に、あなた五十嵐レイナの下着を盗んでなかった?」
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常輝 Tsuneki2022-03-29「そう。おれは関係ないって、全部一人でやりましたって、マネージャーにそう証言してくれよ」
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常輝 Tsuneki2022-03-29真相は定かではないのだが、むらさきのスカートの女が千円もらっているという噂は、あっというまに広まった。その結果、本人の知らないところで更に多くの敵を作ることとなった。二人の関係が囁かれるようになってから、誰もむらさきのスカートの女のことを「日野ちゃん」と呼ばなくなっていたのだが、今度はチーフ陣を始めとするスタッフ全員が、むらさきのスカートの女のことを無視するようになったのだ。
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常輝 Tsuneki2022-03-29その数分後、誰もいなくなった公園に、オレンジが一個、転がっていた。わたしは専用シートの下に落ちていたそれを拾い上げ、その場で皮ごとかぶりついた。ガブリ、ガブリ、と、先ほどのリンゴみたいに。一口目では果肉に届かなかったが、次第に甘酸っぱい果汁が口のなかに溢れ出てきた。∕わたしは夢中で食べた。見学していただけなのに、のどがからからに渇いていた。
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常輝 Tsuneki2022-03-29リンゴを食べ終えたむらさきのスカートの女と子供たちは、そのあと一緒に鬼ごっこをして遊んだ。むらさきのスカートの女がジャンケンの輪に加わったのは、この時が初めてだった。鬼ごっこは、あたりが真っ暗になるまで続き、その間に全員に鬼役が回ってきた。
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常輝 Tsuneki2022-03-29「プフッ、アハハハッ」∕今度のは愛想笑いじゃなかった。むらさきのスカートの女が初めて声を立てて笑うところを見た。